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クリムゾンダーク 第9巻





クリムゾンダーク

第9巻



著者

ゴールドを集める者




タイラはどの盗みが楽しかったのか思い出せなかった。デューンの砂漠の宮殿から荷馬車1台分の絹を盗んだ時だったかもしれない。トンネルを掘って東帝都社の倉庫に入り、扉で突っ立っている番人をよそ目に次々と木箱を盗んだ時だったかもしれない。あるいは、アルゴニアンの供給キャラバンや帝都から出港した貨物船を襲うような、もっと激しい襲撃が好きだっただろうか。


はるか昔を振り返れば、バルモラの路上で旅人にナイフを突きつけて盗んでいた頃が一番の思い出かもしれない。どういうわけか長らく忘れ去られていた、何者でもなかった自分が最も鮮やかに思い出された。洗練され思慮深いリーダーの面持ちは消え去り、そこには判断よりも勇気任せの、貪欲で灰まみれの子供がいた。目を閉じると、貴族から手に入れたルビーの滑らかな手触りを未だに感じられた。この世の物とは思えない手触りだった。


だが最も懐かしく思い出されたのは、値段でも感触でもなく、そのルビーの色だった。ガラスに焼き付けられたその深紅の刃は、まるでレッドマウンテンの炎のようだった。


「なぜだろう」。タイラはエスラエルに尋ねた。「死が間近に迫っている時、過去に思いを馳せるのは」


「死んだ者が前を向いても無意味だからだ」。タイラの戸口を埋めるほど恰幅のいいアルトマーの山賊が、そう答えた。「まさか昔話をするために呼んだわけじゃないよな」


「エーリエルが言うには、市警隊に隠れ家の場所がばれているらしい。3日後に襲撃する気だって」


「好きにさせとけ」。エスラエルが表情一つ変えずに答える。「略奪品はどうする?」


「持っていけない」。タイラが嘆く。「でも奴らに渡すわけにもいかない。できる限り物乞いたちにあげて、残りは発つ前に海へ捨てる」


「仰せのままに」。ハイエルフが言う。「それで、どこに行くつもりだ?」


「一番いいのは、北ね」。タイラが短剣で地図をなぞりながら言う。「首長たちが分裂してる。北が戦争に入るのは時間の問題よ。だけど少人数で移動して、国境を越えてからはそれぞれ行動しないといけない。接触することなく」


タイラにはわかっていた。エスラエルなら、他の山賊たちよりもこの知らせを受け入れられるだろうと。ビョルムンドやスコールやペラディウスは腕力こそあったが、常に他の山賊と絆を深めようと努力していた。だがこのハイエルフは、他の山賊たちとあまり馬が合わなかった。他の職業だったらタイラから手を差し伸べていたかもしれないが、人殺しや泥棒に優しさが美徳だとは言えなかった。


エスラエルはうなずいて立ち去り、タイラが一人静かに残された。このやり取りを経て、タイラは他の山賊たちへ伝えに行く前に少し時間が必要だと思い知った。感情を隠すことには長けていたはずなのに、その顔には悲しみがはっきりと浮かんでいた。この状況で、疲れ切った女の代わりに、押し殺されていたあのバルモラの少女が呼び出されたのかもしれなかった。


覚悟を決めたタイラは、短剣とルビーをポーチに入れると地図から離れた。明日には過去を捨てて国境へ発つことになるが、未来はまだ白紙のままだった。



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