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クリムゾンダーク 第5巻



クリムゾンダーク

第5巻



著者

ゴールドを集める者




エルワンは指輪が呪われていると確信していた。


最初、証拠はちびちびと集まってきた。カード勝負で続く不運、突然の歯痛、酸っぱくなったハチミツ酒。やがて証拠はより大きく、危険な形を取るようになった。剣が標的を外す、薬による回復が遅すぎる、または相棒の野蛮人スコールが素直に踏んでくれればよかったルーンを跳び越え、彼女がそれを踏んでしまったなど。


そして、さらに大きな証拠も出現していた。彼らの稼業を脅かすような事件が続発したのだ。資金は底を突き、行きつけの場所を新たな衛兵が見回るようになり、東帝都社に彼らの仕事がバレたという噂がたった。その全てが示すのは、クリムゾンダークが緩慢に奈落へ転げ落ちていくという予言だった。


これに気づいた賢い者なら、指輪を放り捨てたに違いない。汚らわしい指輪をイリアック湾の真ん中に投げ込み、波が忘却の彼方に運び去るのに任せたろう。賢い人間ならさらなる対策を講じたかもしれない。秘宝とその邪悪な魔法を破壊するのだ。これまでもこの先も、誰も被害に遭わないように。


もちろん、エルワンは首にかけておくことにした。


指輪の性質のことは野蛮人にだけ伝えておいた。兄のエドワードは彼女の話を真に受けてくれないだろう。他の者なら彼らの気まぐれなやり方で、指輪を処分しろと迫るだろう。一方、スコールは意見も言わなければ反対もしない。


彼女が秘密を打ち明けても、いつもスコールは単に彼女を無表情で見つめ、鼻を鳴らして、そばにある肉をかじるだけだ。スコールはやはり、ただの蛮人などではない。その称号をバッジのように見せつけているのだ。いや、むしろ上級王にいただいた勲章のようにというべきか。知ってる言葉はほんのわずかで、書かせても正しい語順に並べられることはほとんど無かった。さらなる恥辱から彼を救っていたのは、しゃべれないことだった。


伝えられている逸話によれば、クリムゾンダークの首領タイラ・ブラッド・ファイアが彼を檻の中で見つけたが、その舌は切除されていた。解放したことで、彼の斧は彼女のものになった。今日に至るまで、スコールが忠実なのが彼女に対してなのか、組織に対してなのか、それともその区別が彼にとって意味があるのか定かではない。タイラがエルワンの仕事を手伝えと言えば、疑問に思うこともなく彼は手伝う。そしてどんな秘密も、侮辱も、このブレトンが彼に向けて投げつけた悪罵も吸収してしまうと思われていた。


そして、その仮説は彼女がルーンを踏んでしまった時に試された。


その週の始め、彼らは情報をつかんだ。新手の組織が首都郊外の古い遺跡で密売を始めたそうだ。簡単な仕事のはずだった。クランの首領と顔を合わせ、腕力に訴え、新たな仲間にして帰ってくるか、分け前をもらってくるかだった。全て台本通りに行くはずだった、とエルワンは思った。指輪の呪いさえなければ。


「みんなお前のせいだ」彼女は誰にともなく自分の反抗的な両手をにらみつけながらつぶやいた。少し前、彼女は詠唱の声で目を覚ました。低く、不吉な呻きが部屋を漂っている。視野がぼやけるのはルーンのせいだが、彼女の集中力が鈍り、呪文が使えないのは執拗なリフレインのせいだ。


ともかく、彼らを捕らえたのが、ただの密売人ではないのは明らかだった。詠唱の出どころを見なくとも、エルワンには状況がマズいのは分かっていた。どれほど長くスコールが考えなしにその方向を指さしていても。


「まあ、少なくとも食人種じゃなくてよかった」エルワンはうそぶいた。「お前を食べたらのどに詰まりそうだから助かってるだけかもしれないけど」


スコールは頭脳明晰なノルドではなかったが、侮辱されれば分かった。昔の彼なら、単にエルワンの頭蓋骨を粉砕して昼寝を決め込んだだろう。さらに言えば、檻も彼にとって珍しくはなかったし、エルワンのやかましいおふざけはパニックの兆候だと看破していた。だが、彼はブラッド・ファイアと呼ぶ者の仲間を守るという誓いを立てていた。そこでスコールは妙な目つきをしてみせる彼女を殺す代わりに、指をさし続けてエルワンをさらに戸惑わせた。


彼女の背後にある祠はデイドラのものだった。巨大で、ねじれ、棘で覆われていた。その茎は醜く、歪んでいた。その黒色の棘からは血が滴り、檻を通り過ぎて、曲がりくねった根のように石段にまで流れ落ちていた。石段の下ではローブをまとった信者が一心不乱に祈りを捧げており、その両脇にはデイドラの鎧を身に包んだ衛兵がいた。屋根がないにも関わらず、遺跡の空気はねばりつくようで、毒々しく、祠は血のような月の光に鼓動するかのようだった。


光が祭壇を照らす中、信者たちの詠唱がより激しく力強くなっていった。声はさらに高まり、ますます大きくなっていく。やがてある衛兵が構えを解き、階段を登って檻へと近づき始めた。それを見たエルワンは歯をむき出して彼を威嚇した。その様はまるで動物のようだったが、彼は怯むことなく近づいた。詠唱が最高潮を迎えると、彼女はもう自分の考えを聴くこともできなくなり、目に入るのは、格子を潜り抜けて彼女の首に伸びる冷たく、黒い篭手だけだった。


衛兵は腕を突き入れて彼女の頭を掴むと、鉄格子に叩きつけた。もう一方の手には武器を手にしている。口から泡を飛ばし、体を鉄格子に押し付けられたまま、エルワンはスコールに対してあらん限りの罵倒を浴びせた。だが、でくのぼうは座ったままで、指を伸ばしたままだった。信者の詠唱が耳を叩いているというのにだ。今は彼の指は地面を差し、円を描いていた。


下を見たエルワンの視界に指輪が入った。指輪は胸で熱っぽく輝いていた。


スコールが何をすべきか指図をするまでもなかった。彼女は衛兵の手を振り払うと、何が起きるか分からないまま、指輪をはめた。


詠唱が止み、鞘から武器が引き抜かれる甲高い叫びに取って代わられた。デイドラの戦士は信者に注意を向けたが、遅すぎた。エルワンの畏怖の魔法が発現していた。彼女の集中力は指輪の力で復活していた。1人ずつ、信者が同士討ちを始めた。彼らの怒りは、彼女自身の怒りに突き動かされていた。やがて金属の響きが遠のき、絶叫が静寂に変化したとき、エルワンは倒れた。彼女自身と指輪の力を使い果たしたのだ。


何時間も過ぎ、一日が過ぎたが、エルワンは檻の床に寝転んだまま、格子からこぼれる日の光を浴びていた。スコールは彼のいる一角で軽くいびきをかき、時おり身じろぎしては体をかいた。外ではカラスが死体の肉をついばみ、クチバシを骨で研いでいたが、生者には目もくれなかった。


他の者がいずれ彼らを探しにくるだろう。そしてエムシャラを呼んで錠前を破らせるだろう。だが今は、エルワンはこのままで満足していた。指輪を空に向けて掲げ、かつて月のあった場所に円を描いた。ひょっとしたら彼女は間違っていて、指輪は呪われてなどいなかったのかもしれない。


だが、それでもエルワンは楽観を拒んでいた。



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