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フレッシュリッパー

書籍概要

『Fleshripper』は、The Wayward Realms世界に存在する海洋冒険譚の一つであり、豪放な海賊船長リノと、その船員たちが経験する苛烈な海戦を描いた短編物語である。


物語は、海賊船“Fancy Lass”が略奪を終えて逃走する場面から始まる。船員たちは奪い取った高級絹織物を身につけ、死の危険を前にしながらも陽気に笑い合っている。しかし彼らの背後には私掠船が迫り、風も止み、逃走は絶望的な状況へと追い込まれていく。


それでもリノ船長は恐怖に飲まれない。敵を挑発し、下品な冗談で船員を鼓舞しながら、あえて接舷戦へ持ち込む大胆な策を選択する。この序盤では、The Wayward Realms世界における海賊文化の粗暴さと陽気さ、そして常に死と隣り合わせの生き様が印象的に描かれている。

フレッシュリッパー


「元気を出せ、野郎ども! 絞首縄だろうが、喉元に突き立てられる刃だろうが、スプレンダーのこちら側じゃ、俺たちはいちばん洒落た死人になる!」


二十挺櫂のガレー船《ファンシー・ラス》の甲板に、万歳と笑い声が満ちた。船は水面を、まるでサメの背びれのように切り裂いて進む。舳先に立つリノ船長は、クラウトシャー産の最高級絹で仕立てた赤いマントを誇らしげにまとっていた。


「俺は何が来ても構わんが、カスパーほど準備万端な奴はいないぞ。見ろ! 赤いシャツに茶色のズボンだ!」


船長の耳に、再び歓声が飛び込んだ。今日はいい日だった。いい戦利品だ。これまでで最大の、赤染めクラウトシャー絹の衣装の隠し在庫に、蜂蜜ジンジャーの樽が二つ、馬具の真鍮飾りが一箱。逃走の最中に着る服を選ぶため、乗組員全員が騒ぎに加わった。ピルプというひょろりとした男は、目を引く婦人服を選び、自分を《ファンシー・ラス》のマスコットだと宣言した。


それは本物の愉快さだった。つかの間ではあったが、確かなものだ。乗組員たちは不安げに武器の柄に指をかけ、背後へと神経質な視線を送っていた。別の船が追い上げてきている。色合いからして私掠船だ。だがリノの気がかりは追っ手そのものではなく、帆だった。主帆は弱まりゆく風にばたつき、しゃっくりするように鳴った末、ついにだらりと垂れて動かなくなった。


「急げ! 櫂につけ! これが唯一のチャンスかもしれん!」


リノ船長は船尾へ駆けた。追ってくる船は少なくとも一層甲板が高く、帆も幅広い。櫂も備えてはいるが、まだ使っていない。私掠船の船首には射手が並び、巨大な男の号令に従って矢を番えていた。その声は《ファンシー・ラス》の船尾楼まで聞こえるほどだった。リノ船長は顔をしかめ、ズボンを下ろし、マントを脇に払ってくるりと回り、尻をさらした。


「放て!」


白い尻を誇らしげに晒したまま、船長は歯を食いしばり、木を噛み切れそうなほど力を込めた。矢の軸が船尾に雨のように突き刺さり、彼は身を低くして船尾楼の手すりに身を寄せた。腕で頭を覆い、永遠にも思える時間、致命の雨が止むのを待った。最後の一本が隠れ場所からほんの数インチのところに突き立ったとき、船長は跳ね起き、叫んだ。


「お前らの母ちゃんに、俺が恋しがってるって伝えとけ、この斜視野郎ども!」


背を向け、再び尻を大写しにしてみせると、私掠船は次の斉射の準備に入った。船長の勇気に煽られ、無鉄砲な水夫が一人、ズボンを下ろしながら駆け寄ってきた。だが足をもつれさせ、甲板に転倒したその瞬間、再び矢が降り注いだ。手すりに身を丸めたリノ船長は、薄く目を開け、一本の矢が愚かな男の背を貫くのを目撃した。


斉射が終わると、リノ船長はズボンを引き上げ、手すりに両手を置き、歯をむき出しにした笑みで背後の船の男たちを睨み下ろした。


「さあ来い、間抜けども。もう一度だ。」


私掠船は次の射を構えた。だが、例の樽のような胸板の巨人だけは動かなかった。陽光を反射する禿げ頭のその男は、憎悪に満ちた視線を返してきた。他の者たちが弓を引く中、矢の群れが空高く放たれ、水面に弧を描いた。今度はリノ船長はその場を動かなかった。


矢は、《ファンシー・ラス》の後方の海へと真っ逆さまに突き刺さった。


追撃船の船首で混乱が爆発した。私掠船の連中が互いにぶつかり合いながら櫂へ殺到し、禿頭の船長が下品な身振りで怒鳴り散らす。


「運が向いたぞ、野郎ども! 櫂を回し続けろ、そうすりゃタイヴェンまで行ける!」リノ船長は船尾へ戻りながら叫んだ。


櫂の一掻きごとに筋張った筋肉がきしみ、乗組員たちは飢えた追撃船との距離を一寸でも広げようと必死に戦った。だが、突然ふくらむ帆が彼らを裏切った。捕まるのは時間の問題だった。


「櫂を放せ、武器を用意しろ! 奴らは船が欲しいんだが、腹いっぱいの鋼をくれてやる! カスパー、左へ十度。お前ら四人、索に就け、主帆を落とす準備だ!」


「了解、船長!」と男たちが叫ぶ。《ファンシー・ラス》は横へと角度を変え、追撃船に右舷側へ並走する道を与えた。


「カスパー! 右へ十度。直進だ。索はそのまま。よし、今だ! 主帆を落とせ!」


帆が畳まれると、これまで蝸牛の歩みでしか詰められなかった距離が、一気に縮まった。二隻が舷を接した瞬間、甲板は激しく跳ね、震えた。船体同士が軋み合う金切り声のような騒音に一瞬耳を奪われ、張力に耐えきれず舷側の柵が砕け散るのを避けて、水夫たちは身をかがめた。相手船がまだ帆を降ろそうとしている最中、リノ船長は剣を抜き、雄叫びを上げる男たちを率いて舷を越えた。


二対一の数的不利にもかかわらず、リノの一味は死肉に群がる蟻のように甲板を覆い尽くした。さっきまで捕食者だった私掠船を呆然とさせる猛突撃だった。ただ一人、先ほど目に留めていた禿頭の狂える巨人を除いては。陽光に銀色を返す、殺気に満ちたファルシオンを握り、その巨大な湾曲刃が振るわれるたび、リノの部下がほとんど真っ二つに断たれた。


両隊長の間に四人が立ち、四人が刈り取られた。剣が一振りされるごとに一人の死。あらゆる受け流しを抵抗もなく弾き飛ばすその一撃。死を恐れぬリノ船長は、正面から運命に突進した。血に濡れた甲板で足を滑らせ、その勢いに任せて巨人の前に転がり込んだ瞬間、巨大な刃が頭上を唸って過ぎた。


リノ船長の剣は華美なものではないが、鋭く、真っ直ぐだった。その切っ先が巨人の腹に届くと、柄の半ばまで沈み込んだ。致命傷にも怯まず、船長格の男は最後の一撃を振り下ろそうとしたが、リノが脚にしがみついて押し倒した。


巨人の頭が甲板に打ちつけられ、醜い音を立てた。間髪入れず、リノはそのファルシオンを奪い、禿げた醜い頭を胴から刎ねた。血に塗れていても、その剣は見事だった。真鍮の柄頭に、革巻きの長い握り。見かけよりはるかに軽い。なに、片手でも扱えそうなほどだ。


跳ね起きたリノ船長は、新たな刃を歌わせながら戦列に戻った。彼自身、相当の剣士だが、この剣を得て戦いは容易になった。そして肉に当たると……ああ! それは腱も骨も無きもののように、ただ清々しく引き裂いた。剣そのものに命が宿っているかのように、受け流しをことごとく叩き落とし、甘美な骨髄を求めて斬り裂いていく。



フレッシュリッパー


すべてが終わる頃には、戦いと呼ぶのも憚られるほどだった。私掠船の連中は、子どもに武器の扱いを教えるための藁人形に過ぎない。新しい剣を試し、その力を確かめる機会に過ぎなかったのだ。そしてその力は、実に多彩だった。切断された手足や首が甲板を覆い、最後の私掠兵が倒れると、リノ船長は部下たちに向き直った。


《ファンシー・ラス》の乗組員は、血に染まった船長を畏敬の眼差しで見つめた。あの馬鹿げた婦人服のまま、ピルプが駆け寄ってきて頬に口づけした。待て? ピルプはいつ顎の無精ひげを剃った? 乗組員たちは声を揃えて叫んだ。「万歳!」


「この船は、なかなかの獲物になるだろう、野郎ども? 洒落た服くらいしか手に入らないと思ってたのにな! 曳航の準備だ! タイヴェンへ向かうぞ! 着いたら、キャプテン・リノの強大な湾曲剣の話を、誰彼構わず語り聞かせてやれ!」



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