ショール
Shor
なぜ、ノルドの英雄が集う館に神の姿はないのか。
ショール(Shor)
ショールは、ノルドの神話で人間の側に立って戦った神々の王であり、死後の国ソブンガルデの主である。嵐の女神カイネを妻とし、異郷の神々との戦いに敗れて心臓を奪われたと伝わる。タムリエルの創世神話でロルカーンと呼ばれる神を、ノルドはこの名で語り継いできた。
『The Elder Scrolls V: Skyrim』では、最後のドラゴンボーンが生きたままショールの館を訪れる。そこで待っているのは、橋を守る従士と、食卓を囲む伝説の英雄たちだ。館の主のために設けられた高座だけが、空いている。
人間の側に立った神々の王
ノルドの祖先の故地アトモーラでは、ショールは自ら軍勢を率いる戦士王として語られた。作中の比較宗教書『Varieties of Faith in the Empire』によれば、世界の創造後、ショールは人間に味方し、彼らを支配しようとする古代エルフに幾度も勝利した。その勇猛さには血を好む荒々しさもあったという。やがて敵方の神々が謀り、かつて神々の頂点に立った王は敗れ、死者の国へ赴くことになった。
この敗北を、ノルドの歌は戦場の光景として記憶している。『ウ ルフハース王 五つの歌』では、エルフの巨人たちがショールの心臓を奪い、戦旗のように掲げる。自分たちを率いてきた王の心臓を見せつけられたノルドは怯むが、イスグラモルの声で奮い立つ。すると敵は、人々が二度と自分たちの神を取り戻せないよう、心臓を隠したという。
ロルカーンの心臓を、ノルドはどう語ったか
神から心臓が切り離される場面は、エルフ側の創世神話にもある。『モノミス』に収められたアルトマーの物語では、ロルカーンが神霊たちを誘って定命の世界を造らせた結果、彼らはかつての力を失う。アーリエルに仕えるトリニマックがロルカーンを倒し、その心臓を取り出す。ところが心臓は、自分と世界は分かちがたく結ばれていると告げ、神々にも壊せなかった。そこでアーリエルは心臓を矢に結び、遥かな海へ射放ったとされる。
二つの物語を並べると、語り手が誰の喪失を悼んでいるかが分かる。アルトマーが振り返るのは、祖先の神々が世界の創造で失った力である。ノルドが惜しむのは、その世界で人間のために戦い、命を落とした王である。シロディールにもロルカーンに対応するシェザール(Shezarr)の伝承があり、そ こでは人間の営み、とりわけエルフの圧迫に抗う人々を奮い立たせた神として語られる。
カイネとツンが結ぶ、生者の世界と死者の国
ショールの死後も、その名は妻や従士の物語に息づいている。嵐の女神カイネは「ショールの未亡人」と呼ばれ、ノルドの戦士たちが敬う女神である。死者の魂を夫の治めるソブンガルデへ導くとも伝わる。戦士が地上で仰ぐ空と、死後に迎えられる館は、この夫婦の物語で結ばれている。
館への最後の橋を守るのは、ショールの「盾の従士」ツンである。生前の主君を守って命を落としたと伝わるツンは、ソブンガルデでも主の命を守り続ける。名高い英雄であろうと、鯨の骨でできた橋を渡るには、まず番人の前で自分の力量を示さなければならない。試練を越えた先の「勇気の間」では、時代を隔てて生きた者たちが同じ卓につく。
「死せる神」の名を呼ぶ人々
第二紀のノルドの信仰を紹介する『Varieties of Faith: The Nords』によれば、ショールはすでに死んだ神とされ、専属の祭司団を持たず、日ごろ祭祀を捧げる対象でもなかった。それでも人々は、誓いを立てるとき、しばしばショールの名を口にする。神殿で祭司が唱える祈りよりも、ひとりのノルドが何かに驚き、あるいは言葉に重みを持たせようとする瞬間に、この神の名を聞く機会がある。
ウルフハース王の歌に現れるショール
第一紀の王ウルフハースは、ノルド古来の神々への信仰を復興した熱意から「ショールの舌」と呼ばれた。王をめぐる歌のひとつには、オルケイが時を喰らうアルドゥインの霊を呼び、ほとんどのノルドが六歳の子供に戻されてしまったという物語がある。少年になった王が助けを求めると、死んだショール自身が霊となって応じ、霊の世界でアルドゥインを打ち破った。
民に年齢を返したのは、その戦いを見て新たな声の力を学んだウルフハースだった。王は人々を救おうと急ぐあまり、自分の身にあまりにも多くの歳月を呼び戻し、老いて命を落 とす。さらに別の歌では、今度はノルドの声の使い手たちがショールの霊を歌で現世に呼び戻す。東方で心臓が見つかったと聞いたショールは、散っていた王の遺灰を集め、軍を率いる将として彼を蘇らせたという。
レッドマウンテンで心臓は取り戻されたのか
同じ歌集が、この問いに二つの異なる結末を残している。第五の歌では、心臓が東方にあるという知らせは罠だった。ショールの軍勢はレッドマウンテンで待ち伏せに遭い、ショール自身も山の下に封じられる。一方、末尾の「秘密の歌」では、心臓は確かにそこにあった。ショールは一度は取り戻すものの、ネレヴァルとの戦いで再び切り離されてしまう。
秘密の歌は、東方の人々がショールを「ロルカーン」と呼んだことまで説明している。ノルドの英雄譚とモロウウィンドの伝承を結ぶのは、このひとつの心臓である。ただし、心臓の在りかも戦いの顚末も、歌い手によって異なる。
『Skyrim』でショールの玉座が空いている理由
第四紀、アルドゥインがソブンガルデに霧を張り、館にたどり着けずにいる死者の魂を喰らい始める。ツンによれば、館の戦士たちはすぐにでも討って出たかったが、その怒りをショールが制していた。ツンは、主にはドラゴンボーンが果たす役目が見えていたのかもしれないと語る。これは長く仕えた従士の推測である。
ドラゴンボーンが勇気の間に入っても、ショールが姿を現して事情を説明することはない。空の高座について、館にいる英雄のひとりは、ショールの姿は生者の目にはあまりにもまばゆいからだと語る。生きて訪れた主人公に見えるのは空席だが、従士は今も主の命に従い、英雄たちはその言葉を覚えている。
アルドゥインとの決戦を終えた後、ツンは主ショールからの贈り物として、ソブンガルデの英雄を呼び寄せるシャウト「勇気の呼び声」を授ける。かつてウルフハースが死せる王を呼んだように、今度は地上へ帰ったドラゴンボーンが、苦境に立ったとき、死者の国の友に助けを求められるのである。
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