イリアック湾
Iliac Bay
二つの地方を隔てる海が、三つの王国を結ぶイリアック湾
イリアック湾(Iliac Bay)
イリアック湾は、タムリエル北西部でハイロックの南岸とハンマーフェルの北岸に挟まれ、西のアビシアン海へと開ける大きな湾である。北岸にはブレトンの古都ダガーフォール、南岸にはレッドガードの王都センチネル、東の湾奥には河川交易で栄えたウェイレストがある。『The Elder Scrolls II: Daggerfall』の舞台となる「イリアック湾地方」には、水域そのものに加え、これらの王国や島々、さらに内陸のオルシニウムまでが含まれる。
湾の入口から奥へ――三つの王都
ダガーフォール(Daggerfall) は、ハイロックのグレナンブラ半島に位置する港湾都市である。後に好敵手となるウェイレストがまだ河口の集落だった頃から、ダガーフォールにはすでに王国が成立していた。湾の西端、外海に近いベトニー島をめぐって対岸のセンチネルと争った歴史からも、この王国の関心がハイロックの陸上の領地を越え、湾口の航路にまで及んでいたことがわかる。
センチネル(Sentinel) は、アリクル砂漠とイリアック湾が出会うハンマーフェル側の港である。砂漠を背にしたこの都にとって、 海の向こうのブレトン諸国は商取引の相手であり、ときには艦隊を向け合う相手でもあった。湾岸の歴史を記した『A History of Daggerfall』は、交易の主導権を競ったのが主にダガーフォールとウェイレストだったのに対し、軍事面で優位を競ったのはダガーフォールとセンチネルだったと振り返っている。
ウェイレスト(Wayrest) は、内陸から流れてきた川(Bjoulsae River)が湾に注ぐところに発達した商都である。作中書籍『Wayrest, Jewel of the Bay』によれば、前身は商人や漁師の暮らす小さな集落だった。海賊の出る湾を抜けてきた旅人がようやく休める場所――同書は「ウェイレスト」という名の由来をそう伝えている。やがて商家のガードナー家が河畔に城壁を築くと、その内側には銀行や商店も入った。第一紀1100年、同家のファランジェルが王となる。湾奥の港で財を築いた商家から王家が生まれたのである。
バルフィエラ島とディレニの塔
湾内のバルフィエラ島(Isle of Balfiera)には、アダマンティンの塔(Adamantine Tower)がそびえる。タムリエルに現存する最古の建造物とされ、後に島を拠点としたエルフのディレニ一族にちなみ「ディレニの塔」とも呼ばれる。ディレニの支配下で、塔は宮殿、要塞、牢獄として使われた。
島はハイロックの外交史にもたびたび登場する。『帝国のポケットガイド』第1版によれば、諸王は何世紀にもわたり、交渉や条約締結のための中立の会合地としてバルフィエラを利用してきた。湾口のベトニー島ではどの王に従うかをめぐって戦争が起きた一方、バルフィエラ島には、異なる王に仕える者同士が会うための場所があった。
第一紀のオルシニウムと交易路
湾岸の町が船を出せても、内陸へ荷を運ぶ道が閉ざされれば交易は滞る。第一紀948年のものとして伝わるダガーフォール王ジョイルの書簡は、ウェイレストの人々がオークに悩まされ、内陸への往来が妨げられていると訴えている。やがて第一紀950年に始まったオルシニウム包囲戦は、実に30年に及んだ。
第一紀980年にオルシニウムが陥落すると、ウェイレストの商人たちは交易路を整え、湾で活動する海賊を減らし、街を両岸に広げていった。この経緯を伝える『Wayrest, Jewel of the Bay』は、ウェイレストの繁栄を誇る側 から書かれた一冊である。同じ年が、一方の都市の歴史では商業発展の転機となり、オークの歴史では故国が陥落した年となる。
第二紀――ダガーフォール・カバナント
第二紀には、湾の両岸とオークの勢力を結ぶ同盟が成立した。ダガーフォール・カバナント(Daggerfall Covenant)の名は、リーチの軍勢をダガーフォールの城門前で破った後、ブレトンの諸王が結んだ相互防衛条約に由来する。後に同盟を率いるエメリックにとって、この戦いは若き日の大勝利でもあった。
『The Elder Scrolls Online』の時代、商人貴族出身の上級王エメリックが統治の拠点としたのはウェイレストである。ハイロックの諸王から支持を得たエメリックは、婚姻によってレッドガードと結び、オークとも軍事同盟を結んだ。ダガーフォールという名には条約成立の経緯が、ウェイレストという王都には同盟をまとめた君主の足場が、それぞれ刻まれている。
第三紀――ベトニー戦争とリサンダス王の亡霊
第三紀402年から403年にかけて、ダガーフォールとセンチネルはベトニー島(Betony)の帰属をめぐって争った。島は漁業で栄え、イリアック湾と外海の境に近かった。ダガーフォール側に好意的な戦記では、海賊に脅かされた島の領主モグレフが自ら庇護を求め、リサンダス王がこれを引き受けたという。同じ戦争にはセンチネル側に立った戦記も残る。誰が誰を守ろうとした戦いだったのかは、どちらの岸でその歴史を読むかによって変わる。
戦争はクラインゲイン平原(Cryngaine Field)の決戦で終結した。ダガーフォールが島を獲得し、リサンダスの後を継いだゴスリッドは、センチネルの王女オーブク・アイ(Aubk-i)と結婚して講和を固めた。ところが、戦死したと伝えられたリサンダスの亡霊が、夜ごとダガーフォールの街に現れるようになる。
第三紀405年、皇帝ユリエル・セプティム七世は、旧友リサンダスの魂に安息をもたらすこと、そして行方の知れない皇帝の手紙を捜すことを密使に託した。これが『The Elder Scrolls II: Daggerfall』の幕開けである。一人の王の死を追って湾を渡るうちに、密使は三つの宮廷を結ぶ婚姻、継承争い、そしてドゥーマーの巨像ヌミディウムをめぐる争奪に関わっていく。
第三紀417年――「西の歪み」が変えた勢力図
ブレイズの記録官ウルヴィウス・テロが編んだ『西の歪み』によれば、異変の前、イリアック湾地方には大小44の独立した領域が存在した。第三紀417年の異変を境に、それらはダガーフォール、ウェイレスト、センチネル、オルシニウムの四大勢力へと再編された。古くからの三王国に、オークの王国が並んだのである。
帝国と聖堂は、この出来事を「平和の奇跡」と呼んだ。しかし、現地から届いた報告には、失われた一日、破壊された土地、多数の死者が記されている。ヌミディウムの起動に結びつくこの時間の異変は、両立しないはずの歴史がともに結果を残す「ドラゴンの突破(Dragon Break)」の一例とされる。後世の地図には四勢力の領土を描けても、そこへ至るまでの数日間を、すべての証人に共通する順序で語ることはできない。
スカイリムの書籍から訪ねるイリアック湾
『The Elder Scrolls V: Skyrim』の作中書籍『センチネルに落ちる夜』を開くと、物語はセンチネルの名もなき酒場から始まる。客たちが声を潜める地下の店で、若いレッドガードの女性が一人の殺し屋に近づく。王や艦隊を追う年代記からは見えにくい、南岸の都の夜を描いた短編である。
