アーサゴー
Arthago
センチネルの地下墓所で、十五歳の王子は何を書き残したのか。
アーサゴー(Arthago)
アーサゴーは、第三紀のハンマーフェルにあったセンチネル王国の第一王子。カマロン王(Camaron)とアコリシ女王(Akorithi)の長子で、歴史と科学を学び、親しい司祭からはセンチネル初の「学者王」になれるかもしれないと期待されていた。その生涯を伝えるのは、王としての事績を刻んだ碑文ではない。第三紀400年、十五歳のときに地下墓所で書いた一通の手紙である。
剣よりも本を好んだ王位継承者
アーサゴーは幼い頃から熱や咳に悩まされた。宮廷にはタムリエル西部から腕のよい治療師や薬師が集められ、何度も命を救った。手厚い治療を受けた一方で、両親から愛情を示された記憶は乏しかったという。父は戦士として知られる王だった。息子のアーサゴーは、自分が父と同じように剣を振るう日が来るとは考えていなかった。
王子が親しみを覚えたのは、病床のそばにいた医師や薬草師、司祭たちだった。なかでもステンダールの司祭は、学問によって国を治めるという将来を彼に思い描かせてくれた。のちにセンチネルで王子について聞き回ると、剣より本を好む子だったと記憶する人がいる。宮廷が望んだ跡継ぎの姿と、町の人々の記憶に残った王子の姿には隔たりがある。
弟たちの名が示したもの
妹のアウブキ(Aubk-i)は快活で運動に秀で、両親に可愛がられた。アーサゴーも妹を愛していた。のちに墓所で家族を振り返ったとき、もう一度会いたいと名を挙げたのは、この妹である。
やがて弟のグレクリス(Greklith)が生まれ、その翌年にはもう一人の弟ロトゥン(Lhotun)が生まれた。王子の手紙によれば、古いレッドガードの言葉でグレクリスは「強き王」、ロトゥンは「二番目の息子」を意味する。長男のアーサゴーを数えれば、ロトゥンは三人目の息子にあたる。
どちらも一族では珍しくない名だったため、当のアーサゴーは、はじめそこに特別な意味を読み取らなかった。二つの名を並べ、両親はずっと以前から自分を継承者の数に入れていなかったのだと悟るのは、捕らわれてからのことだった。これは正式な廃嫡の布告を読んだ記録ではなく、息子の側から見た王家の内情である。
第三紀400年、地下墓所に残した手紙
長い熱病からようやく回復したとき、アーサゴーは父の顔に嫌悪の色を読み取った。その後、散歩中に見知らぬ男たちに襲われる。乳母はそばにいたが、男たちが王子を縛り、猿ぐつわをかませて袋に押し込むのを黙って見ていた。
連れ去られた先は、アンデッドの徘徊する地下墓所だった。王子は自力で縄をほどいたものの、出口にはたどり着けなかった。そこで書いた手紙には第三紀400年、暁星の月(Morning Star)23日の日付がある。この日、王子はまだ生きており、水も食料も与えられずに二日が過ぎたと記している。いつ、何が直接の原因となって命を落としたかまでは分からない。
王子にはひとつの心残りがあった。歴史や科学に費やした時間を魔法に向けていれば、ここから脱出できたかもしれない。それでも、筆を執った理由は歴史を学んだ自分にふさわしいものだった。復讐を求めるためではなく、自分の身に何が起きたかを後世に伝えるために、王子は手紙を結んでいる。
兄の行方を追ったロトゥン王子
『The Elder Scrolls II: Daggerfall』でこの手紙を捜すきっかけになるのは、弟ロトゥンの疑問である。兄は熱病で死んだという者もいれば、アンダーキングにさらわれたという者もいる。誰に尋ねるかで答えが変わるため、ロトゥンは皇帝の密偵に、兄の身に起きたことを裏づける証拠を求める。
調査に手を貸すのは、誘拐の犯人と噂されていたアンダーキングの側の人物である。その手掛かりを追った密偵は墓所に至り、王子自身の手紙を発見する。ロトゥンにとって、それは噂に答えを与える証拠であると同時に、長く消息の分からなかった兄の言葉でもあった。なお、『Daggerfall』では失踪した王子の名はプレイごとに変わりうる。後のゲーム内書籍でこの王子に与えられた名が「アーサゴー」である。
『センチネルに落ちる夜』が語る事件の後日譚
ボアリの著した『センチネルに落ちる夜』は、ベトニー戦争より前に起きたこの事件を、二十年以上が過ぎたセンチネルの酒場から語り直す。ハバラ(Haballa)と名乗る女性が、ある人物を傷つけずに連れ去りたいと持ちかけると、ジョミック(Jomic)という男が、かつて自分たちの手掛けた仕事を得意げに語り始める。
ジョミックによれば、一味は王家の長子アーサゴーを袋に詰めて古い遺跡の奥へ運び、アンダーキングにさらわれたように見せかけるために雇われた。男は秘密を守り通したつもりでいた。ところがハバラの外套の下には、センチネル王の紋章を帯びた鎧が隠れていた。かつて兄の消息を尋ねたロトゥンは、即位してからも事件の実行者を捜し続けていたのである。
この短編が明かすのは、墓所のアーサゴーには知りようのなかった出来事だ。王子は手紙の中で、いつか誰かが自分の境遇を知ることを願った。その願いを受け取ったのが、「二番目の息子」と名づけられた末弟だった。
