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[妻名] の日記



蒔種の月23日


[主人名] は農民暮らしを始めてみたくてたまらない様子だった。そういうわけで岩だらけの土地と雨漏りするおんぼろ農家で暮らすことになった。私が夢見た暮らしじゃないけど、一緒に頑張るつもり。


土が肥沃なのはせめてものことだった。石だらけではあったけど。素敵な庭園を作ることができるだろう。薬に必要な材料も揃えられる。その収入があれば、少なくとも、最初の冬は越せるはず。




栽培の月10日


地下に壁で囲まれた隠し部屋を見つけた。錬金術の研究室にぴったりだった。夫のことはこよなく愛しているけど、大地に根差す優しい魔術のことになると、あの人は頭の固い大バカ者になってしまう。私の薬がなければ [子供名] は昨年の冬に熱で死んでいたというのに。




降霜の月1日


農園は順調だけど、 [主人名] は稼ぎより多くのものを欲しがるようになってきた。最近じゃ馬車の購入を考え始めた。食事にも事欠くことがあるのを忘れてるみたい。馬車だなんて、冗談でしょ!


彼がいやらしい目で私の薬やハーブを見ているのは知っている。でも彼が買うもののお金を他にどうやって稼げというの? この分だと、あの人はもう一つ農場を買おうとか言い出しかねない!




真央の月13日


[子供名] がいなくなった。あちこち探したけど見つからない。あの子の木剣もなくなっている。神々よ、お助けください。家出したんじゃないといいんだけど! あの子はツンドラがどれほど危険か分かっていない。




真央の月16日


もう3日たった。うちの子はまだ帰ってこない。 [主人名] の目つきが気に入らない。あまりに暗く、静かで、まるで凍った湖みたい。「私に報いを受けさせる」とか呟いていたのを耳にしたと思う。


まさかあの人が? いえ、恐ろしくてとても書けない。




あの人がやったんだ。そうに違いない。あの怪物が私の息子を殺したんだ。そして今では憎悪に満ちた視線と小馬鹿にした笑みを私に向けている。私の錬金術を嫌うあまり、息子を取り上げて私を罰しているんだ。


毒を作ったことはなかったけど、やり方は心得ている。ハチミツ酒にちょっと垂らせばあの子の仇を討てる。




終わった。神々に罰されるだろうけど、子供を殺した罪であいつのほうがもっと罰される。 [子供名] ごめんなさい。できることなら私が――


待って、何か聞こえ



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