STARFIELD LIBRARY
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宇宙戦争
第1部
火星人の襲来
1.
開戦前夜
19世紀の終わりごろにこう言われていても誰も信じなかっただろう。この世界は人間よりも賢く、しかし同等に命ある者たちによって監視されていたということを。人間たちが忙しく過ごしている間も、まるで水の中で増殖する微生物を顕微鏡で眺めるように、観察され研究されていたことを。人間は自分たちが支配者であると確信し、些末なことで地球上を行き来しては自己満足に浸っていた。顕微鏡の微生物も同じかもしれない。地球よりも前から存在していた宇宙の世界を人類への脅威として考える者はいなかった、もしくはそこに生命があるなどあり得ないと否定するためだけのためにそう考えた。当時の思考を振り返るのは実に面白い。火星に生命がある可能性を考える地球人もいたが、自分たちよりも劣っていて進出事業を歓迎するだろうと考えていた。しかし彼らから見た我々は我々から見た獸と同等の知能なのである。広大で冷静、そして無慈悲な彼らはこの地球を欲望に満ちた目で眺め、ゆっくり、しかし着実に我々を打倒する計画を立てていた。そして20世紀の初期に「目覚め」があった
読者に改めて説明するまでもないが、火星は太陽から1億4千万マイルの距離を回っており、太陽から届く光と熱はこの星の半分ほどしかない。星雲の仮説が少しでも正しいとすれば、この星よりも古くから存在することになり、地球が誕生するずっと前からそこの生命は誕生していたのだろう。地球の体積の7分の1ほどしかないことから、生命が誕生できる温度まで冷えるのも早かったのだろう。空気も水も、生命の維持に必要な資源はすべて揃っている
[1897年に雑誌で連載が開始されたH・G・ウェルズの「宇宙戦争」は、あからさまなタイトルとは裏腹にビクトリア時代の偏見、不安、価値観を題材にしたと考えられている]