STARFIELD LIBRARY
スターフィールド図書館
レッドローバー、カムオーバー
[ルボヴ・ソンの小説「レッドローバー、カムオーバー」からの抜粋。自律型ロボットローバーが意識を持ち、自己複製能力を獲得して、人間より先に火星を植民地化したという、架空の歴史が描かれている]
...ラリーサはただ微笑んだ。機械はどうすればよいかわからず、光を点滅させ続け、サーボが回転する際にたてるかすかな高音を発していた。しかし、機械との意思疎通はラリーサの得意分野だ。万能通信機のボタンをはじくと、通信機のLEDは彼女の操作にあわせて激しく瞬いた
「大丈夫」彼女は通信機をとおして伝えた。「あなたを傷つけたりしないから。でも、この洞産から脱出するには、協力しないとね」
ラリーサは、こんなことになるなんて思っていなかった。火星の地下にある使われていない採掘トンネルに、ロボットとともに閉じ込められるとは。そのロボットはおびえているし、こちらを攻撃してくる可能性も否定できない。それでもラリーサは、潜入工作員として、似たような状況に備えた訓練は受けている
機械はカチカチピーピーと音を発し、「信頼します」と伝えてきたが、これは直訳ではない。機械が理解するバイナリー言語は精密ではあるが、ラリーサの母語に訳するにあたり、誤った解釈に受け取ってしまう可能性はあった。だが今回は近い意味だったようだ。ロボットは落ち着いているように見える。ラリーサのほうを向き、より多くの光を取り入れるために絞りを開いた。彼女に反射する光から少しでも多くの情報を得ようとする。そして、多数の留め具のひとつを彼女に向けてきた。ラリーサはその留め具を力強く、だが同時に優しく引き、小型のロボットをがれきの下から引っ張り出した
「ほら。これでましになったでしょう?」と通信機に入力した。「あとは、あなたがこのトンネルの外にあるわたしの降下船まで導いてくれたら、増援を呼べる。そうしたらあなたの仲間が圧制者と戦うのを手伝えるかもしれない」
ロボットは理解したのか、うなずくような動きをみせ、でこぼこな通路を進んだ。時折止まり、ラリーサが追いつけるように待ってくれた...